名も無く 貧しく 美しく
喜八

戦後映画の題名にも選ぱれたこの詩句は、尾崎喜八が昭和三十
年に出した詩集『花咲ける孤独』のなかの一篇「或る晴れた秋
の朝の歌」の中にある。
 名も無く貧しく美しく生きる
 ただびとである事をおまえも喜べ。
 しかし今私が森で拾った一枚のかけすの羽根、
 この思い羽の思いもかけぬ碧さこそ
 私たちにけさの秋の富ではないか。
  尾崎喜八(1892〜1974)は詩人、自然と内面の関わりに
  独自の詩壇を開いた。