だれも見ていないのに
咲いている 花と花
だれも聞いていないのに
啼いている 鳥と鳥
道造
立原道造の生前未刊に終わった詩集『優しき歌』のなかの、最初の作品「ひとり林に……」の最初の四行。詩は次のように続く。
通りおくれた雲が 梢の/空たかく ながされて行く/青い青いあそこには 風が/さやさやすぎるめだろう
草の葉には草の棄のかげ/うごかないそれの ふかみには/てんとうむしが ねむっている
うたうような沈黙(しじま)にひたり/私の胸は 溢れる泉! 堅く/脈打つひびきが時を すすめる
立原道造(1914〜1939)は建築家、詩人。生前に『萱草に寄す』『暁と夕の詩」などの詩集があった。 |