人は努めている間は迷うにきまつたものだからな
ゲーテ

悲壮劇と銘打たれた二部からなるゲーヂの詩劇「ファウスト」は.前後六十年もかけて完成された。悪霊メフイストフェレスの誘惑と戦いながら、人間の真実を追い求めるファウスト博士の劇には、人生にかかわる、打てば響くような名台詞がたくさんある。ここではよくその気魄を伝える森鴎外の訳によった。
これは第一部『天上の序曲』にある悪魔と神の問答。
 メフィスト どうです。旦那。何を賭けますか。あいつに裏切りさせて、/お前さんさえ承知なさりゃあ、/そろそろわたしの道へ引き込んで遣りたいのですが。
主 それはあれが生きている間は、/お前がどうしようと、己は別に止めはしない。/人は努めている間は、迷うに極まったものだからな。